
長年にわたり隠れた航行を続けてきたイラン産原油タンカー(非イラン籍船を含む)が方針を大きく転換し、現在極めて稀な一貫性をもってAIS(船舶自動識別システム)信号を送信しています。Kplerの最新の追跡データによると、過去48時間の間にイラン産原油を輸送する89隻のうち、信号を遮断していた船舶はわずか14隻にとどまり、従来の回避スタンスから一転したことが明らかになりました。
カーグ島で積載中の船舶

むしろ、より信憑性の高い要因として、2015年以前の制裁を復活させた国連の「スナップバック(制裁の再発動)」によるイランの法的立場が挙げられます。この措置は、特に適切な保険に加入していないイランのタンカーなどを第三国が抑留・拿捕する法的根拠を拡げており、AIS信号の発信を再開することで、イランは船舶が武器や核関連物質などの禁止品ではなく原油を輸送していることを示し、貨物の正当性を示そうとしている可能性があります。すなわち、可視性の向上は、国際法に基づく海事規範への順守を示し、拿捕リスクを低減させるという戦略的取り組みであるとも考えられるのです。
このAIS信号に関する方針転換は、戦略的抑止力として機能する可能性もあります。イランは以前もホルムズ海峡で外国のタンカーを報復として拿捕しており、イラン貨物の可視化は、いかなる拿捕も報復措置の対象となり得るこという牽制と捉えることもできます。また、可能性はより低いものの、この動きは、米国・国連の制裁で法的・物流的圧力が高まる中でも、中国向け原油輸出量や安定性は損なわれていないとイランの強靭さ誇示する狙いがあるとも考えられます。
第三の、より繊細な理由として考えられるのが中国との関係です。イランは、ロシアと共に国連のスナップバック制裁に反対した中国政府との良好な政治的関係性構築のためにAIS信号の透明性を利用しているのかもしれません。しかしこの動きは、外交的に中国を晒すリスクも孕むものです。中国は、米国・国連の制裁には反対しつつも、イラン産原油を通常第三国(マレーシアなど)に産地を偽装して輸入しています。AISによる船舶追跡で、中国政府が「もっともらしい否認」を維持し続けることが難しくなる可能性があります。
一方、先週の米国による日照ターミナルへの制裁を受けて、中国はもはや米国の圧力に屈せず、制裁を無視する方針をとる可能性も考えられます。米国は今年に入り、イラン産原油を扱う船舶への圧力を強化。過去12か月間にイラン産原油を積載した船舶の60%以上が現在OFAC(米国財務省外国資産管理局)の制裁対象となっており、1年前の38%から大幅に増加しています。
中国港湾の大半はOFACの制裁対象船舶を受け入れていないため、これは物流チェーン全体に影響を及ぼします。その結果、より多くのイラン産原油貨物は荷揚げ前に非制裁対象の船舶へ移し替えが必要となり、コストの増加を引き起こします。もし中国が方針を変更し、全ての港湾が制裁対象船舶を受け入れられるようになれば、船舶の位置を隠す必要がなくなり、制裁対象船舶と非対象船舶間の貨物移送も不要となり、イランの物流コストの削減につながります。
